2023.06.05
2023.06.05
従業員エンゲージメントはなぜ必要?要素と高めるポイントを解説
人事制度・組織づくり
「最近、些細な出来事がきっかけとなり、社員の退職が続いている気がする」 「日本企業は従業員エンゲージメントが低いと聞いたことがあるが、どうしたらエンゲージメントを高められるのか分からない」 労働力不足が続く日本企業で、社員に会社に留まるのみならず、ポテンシャルを最大限に発揮してもらうためには、従業員エンゲージメントは欠かせない要素でしょう。 しかし従業員満足度と何が違うのか、あるいはエンゲージメントを高める方法が分からないという声もよく耳にします。 今回は、どのような企業にも求められる従業員エンゲージメントについて、その定義から、エンゲージメントを高めるメリットや高めるためのポイント、事例までご紹介します。 従業員エンゲージメントとは何か 従業員エンゲージメントとは、従業員が自発的に「会社や仕事に貢献したい」と感じる意欲のことです。「愛社精神」や「愛着心」とも呼ばれることがあります。 英語の「エンゲージメント(engagement)」には「契約」という意味が含まれており、従業員と企業間での強くて固い結びつきをさす言葉です。 人事管理の分野でエンゲージメントの概念を最初に導入したのは、1990年のボストン大学カーン教授の研究です。従業員の仕事への心理的な没頭度合いが、個人の成果や企業業績を左右するという見解を示しました。 その後2007年にASTD(American Society for Training & Development)で組織エンゲージメントに関するレポートが発表され、欧米を中心に従業員エンゲージメントの概念が浸透していきました。 従業員満足度との違い 従業員エンゲージメントと似た概念として、従業員満足度が挙げられます。 Employee Satisfactionを略して「ES」と呼ばれることもあります。 従業員満足度とは、労働条件や働く環境に左右される「外発的動機付け」の要素が大きい概念です。 外発的動機付けは満たされていないと不満につながってしまうものの、条件がよければよいほど社員のモチベーションにつながるわけではありません。 一方、従業員エンゲージメントは、自身の興味や好意によって内側から沸き起こる「内発的動機付け」に該当します。 給与に代表される労働条件ではなく、企業のミッション・ビジョンや仕事の意義に共鳴し、その達成のために自ら貢献したいと思っている状態が、エンゲージメントが高い状態といえます。 従業員エンゲージメントが重要視される理由 従業員エンゲージメントが重要視される理由のひとつとしては、昨今の日本の労働力不足が挙げられます。 社員がポテンシャルを最大限に発揮し、中長期にわたり自社で貢献してもらうためには、エンゲージメントが重要だからです。 単に給与等の労働条件のみで自社にいる社員ばかりであれば、他社からもっと高い給与を提示されれば、転職してしまう事態も招きかねません。 また、昨今の新型コロナウイルスの影響でリモートワークが浸透したこともあり、従業員のエンゲージメントがさらに重要視されるようになりました。 例え非対面の働き方であっても、自律的に組織に貢献しようと思うエンゲージメントの概念が、あらためて必要だと感じている企業が増えたのではないでしょうか。 日本企業の従業員エンゲージメントの状態 日本企業の従業員エンゲージメントの状態は、残念ながら決して良好とはいえません。 日本で急速に従業員エンゲージメントが注目されたきっかけは、2017年に米国の調査会社ギャラップによる従業員エンゲージメント調査です。調査結果では、日本企業の「熱意あふれる社員」の割合はわずか6%で、調査国139ヵ国中132位と最低ランクに近い順位だと判明したのです。 参照 ※4:【日本経済新聞】「熱意ある社員」6%のみ 日本132位、米ギャラップ調査 この衝撃的な調査は多くのメディアで報じられ、日本企業で「従業員エンゲージメント」という概念の認知が広がっていきました。報酬や労働環境への満足を超え、従業員自身の内側から沸き起こるエンゲージメントは、多くの日本企業では目新しい概念だったのです。 エンゲージメントを高めるメリット 従業員エンゲージメントを高めるメリットについて、数値で検証されている2点について紹介します。 業績向上が期待できる 従業員エンゲージメントの重要性が世界的に広まったのは、エンゲージメントが企業業績や生産性向上へ寄与することが、データで明らかになったからです。 米国ウイリス・タワーズワトソン社の調査では、「持続可能なエンゲージメント」が高い企業は、低いエンゲージメントの企業に比べて、一年後の営業利益率の伸びが3倍であったという結果が出ています。 さらに日本でも2018年にリンクアンドモチベーションと、慶應義塾大学ビジネス・スクールの共同研究により、従業員エンゲージメントの向上は、営業利益率および労働生産性向上に寄与することが分かりました。 参考:「エンゲージメントと企業業績」に関する研究結果を公開 このような調査結果を基にして、企業規模を問わず従業員エンゲージメントを高める動きが加速するようになったのです。 離職率の低下につながる エンゲージメントが高い状態の従業員が多いと、従業員の定着力を上げることができます。 企業によるエンゲージメント向上のための取り組みは、組織へ愛着を持ったり、この企業で働く意味を見出したりする社員を増やすための活動です。 実際にある調査では、エンゲージメントの高低によって、離職率に差が生じていることも実証されています。 参考データ:「Driving Performance and Retention Through Employee Engagement」CEB社 労働力不足に悩む企業が多い昨今の状況では、従業員の離職を防止できることは大きなメリットといえるでしょう。 従業員エンゲージメントを構成する3つの要素 従業員エンゲージメントを高めたいと考えるのであれば、まずはどのような場合にエンゲージメントが高まるかを理解する必要があります。 ここからはエンゲージメントが高まりやすい3つの要素について紹介します。 1.貢献 組織で仕事をしている以上、自分の動きが誰かの役に立っている貢献感は欠かせません。 例え「議事録を取る」「リマインドメールを送る」のような小さな動きであっても、相手から「ありがとう。助かりました」のような反応が得られると、さらに自発的な行動が加速します。 2.成長 仕事を通じて、これまでできなかったことができるようになれば、よりモチベーションは上がります。 特に若手社員は「成長」や「スキルアップ」を重視する傾向があります。 仕事を通じて自分ができる範囲が広がる環境であれば、環境に対しての感謝とともに、さらに成長を通じた貢献をしたいと感じるはずです。 3.実現 自分がめざすビジョンに対して、現状の仕事が役立っていると思うことは、エンゲージメントを高めやすいポイントといえるでしょう。 会社で過ごす時間や仕事に費やす時間は少なくありません。 その時間を「自分のキャリアプランの実現に意味のある時間だ」と感じることは、報酬等の条件では得がたい経験と思えることでしょう。 従業員エンゲージメントを高める6つのキーポイント 従業員エンゲージメントを高めたいと思った際に、参考にしていただける6つのポイントをお伝えします。 経営方針・トップの経営手腕への信頼 会社員である以上、トップの経営方針や手腕はエンゲージメントを左右する重要要素です。 企業経営は、いわば船旅と一緒です。 舵取りが信頼できないと、乗組員は安心して仕事をすることができず、仲間との結束も揺らいでしまうでしょう。 経営の状況や戦略を定期的に社員と共有し、積極的にコミュニケーションをとることが大切です。 働きがい・働く誇り 仕事を通して自分を高められる、または、社会に貢献できるといった働きがいと誇りが、自発的な仕事へのコミットメントにつながります。 同僚との良好な関係 互いを尊重し協力し合える職場の人間関係は、職場での安心感や所属意識、働く楽しみを与えてくれます。 同じ目標に向かい協働していくためには、良好な人間関係が欠かせません。 自分の意見を聞いてもらえる・評価してもらえる環境 自己肯定感を得られないと、人は不満を抱えるものです。自分の頑張りを正当に評価してもらえる環境はやる気の維持には不可欠です。 自分のキャリアの将来性 その企業で働き続けることに対する不安は、離職に直結します。 優秀な人ほど自分の将来について真剣に考えており、将来への見通しは働きがいとつながっているのです。 企業の職場環境改善への取り組み 昨今は「仕事に集中できる環境作り」「ライフプランに応じた働き方の選択」が企業に求められています。 会社が働く環境を改善するために、さまざまな施策に取り組む姿勢は、従業員の会社への愛着心とやる気を高めるでしょう。 従業員エンゲージメントを高めている好事例 最後に、従業員エンゲージメントを高めるために、参考となる事例を2つ紹介します、 スターバックス コーヒージャパン コーヒーチェーンのスターバックスは、従業員が学士号を取るための資金サポートを行うといった、ユニークな経営でも知られています。日本のスターバックスでも、自己研鑽への補助を行い、従業員が業績向上のためスキルを磨くサポート制度があるのです。 さらに、このようなサポート制度だけではなく、働き方に関する根本的な考え方も他社とはやや異なっています。チェーン展開をする飲食店としては珍しく、マニュアルがほぼ存在しないというのもその一例でしょう。 マニュアルで従業員を管理するのではなく、アルバイトやパートタイマーを含めた全スタッフを「パートナー」と呼び、理念に共感してもらうように働きかけているのです。 現実的には、数多くのスタッフの行動をマニュアルで管理・規制するのは至難の業でしょう。そこで、スターバックスでは従業員エンゲージメントを高めることで「自律的」「自発的」に、顧客や店舗のためを思った行動を促しているのです。 参考:マニュアルのないスターバックスは、なぜエンゲージメントを高められているのか(前編) マニュアルのないスターバックスは、なぜエンゲージメントを高められているのか(後編) LIXIL LIXILは、浴室やキッチン等、生活回りの住設メーカーです。 昨今は、人口減少にともなう新築工事の減少が予測されていることもあり、現在の顧客とのつながりの強化が求められていました。 そこでLIXILでは、従業員エンゲージメントと顧客ロイヤリティの関係に着目しました。 具体的な施策としては、エンゲージメントサーベイの月1回の実施です。 かつては一年ごとに従業員満足度調査を行っていましたが、より短いサイクルでタイムリーに従業員の意識をつかむ必要があると考えました。そのため、エンゲージメントサーベイを月1回の頻度で実施し、定点観測することにしたのです。 サーベイの結果を受けて、従業員エンゲージメント向上のための具体的な取り組みも展開しています。情報共有システムを活用し、社員が必要としているサポートをリアルタイムに把握する取り組み等がその一例です。 参考:LIXILが実践する従業員エンゲージメント向上と顧客志向の徹底 まとめ 従業員エンゲージメントの考え方は、従来の日本企業では馴染みが薄かった概念であるかもしれません。 しかし、ビジネス環境が複雑化・グローバル化し、日本独自の雇用形態や人事制度が企業競争力につながりにくくなった昨今、無視できない概念といえるでしょう。 いま一度、従業員の持てる力を発揮してもらうため、従業員エンゲージメントを高める取り組みに目を向けてはいかがでしょうか。