2024.04.09
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「社会人基礎力という言葉を耳にすることはあるが、具体的な内容は知らない」
「社員の社会人基礎力がどの程度あるか把握しておきたい」
業種や職種をまたいで、会社で働くうえでの素地として求められる社会人基礎力。
2006年に経済産業省が提唱し、社会人として押さえるべき基礎が詰まった概念ですが、具体的な内容や自社での高め方は実はあまり知られていません。
今回は「社会人基礎力」とはどのような内容で構成され、どのように鍛えていけばよいかについて紹介します。
「社会人基礎力」とは?どのような位置づけなのか?
社会人基礎力とは、2006年に経済産業省で「多様な人々と仕事をしていくうえで必要な基礎的な力」として定義された概念です。
もともとは企業で働く人と、未就業者である学生の間で「身に付けておいてほしい能力水準」に意識の差があったことから、企業と学生間での認識のギャップを埋めるために定義されました。
社会人としての能力は、まず社会人としての心構えや基本的なビジネスマナー等が挙げられますが、さらに必要となるのが社会人基礎力です。
社会人基礎力が十分に備わったのち、各職種で必要となる専門知識・スキルがさらに上乗せされていくイメージでしょう。
社会人基礎力の3つの能力と、12の能力要素
社会人基礎力は「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力と、それらに紐付く12の能力要素で成り立っています。
具体的には以下の表の通りです。
3つの能力 | 能力要素 | 内容 |
前に踏み出す力
(アクション) |
主体性 | 物事に進んで取り組む力 |
働きかけ力 | 他人に働きかけ巻き込む力 | |
実行力 | 目的を設定し確実に行動する力 | |
考え抜く力
(シンキング) |
課題発見力 | 現状を分析し目的や課題を明らかにする力 |
計画力 | 課題の解決に向けたプロセスを明らかにし準備する力 | |
創造力 | 新しい価値を生み出す力 | |
チームで働く力
(チームワーク) |
発信力 | 自分の意見を分かりやすく伝える力 |
傾聴力 | 相手の意見を丁寧に聴く力 | |
柔軟性 | 意見の違いや立場の違いを理解する力 | |
状況把握力 | 自分と周囲の人々や物事との関係を理解する力 | |
規律性 | 社会のルールや人との約束を守る力 | |
ストレスコントロール力 | ストレスの発生源に対応する力 |
ここからは各要素の定義と、どのように伸ばしていったらよいかのヒントについて紹介します。
2.1 前に踏み出す力(アクション)
この力は、困難な状況でも一歩前に踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力です。
3つの構成要素について具体的に紹介していきます。
①主体性
物事に進んで取り組む力が「主体性」です。
新卒採用時に、多くの企業で重視されている力といえるでしょう。
主体性を伸ばすためには、自己信頼を高める必要があります。
例え小さな課題でも「達成できた」という経験を重ねていくことで、徐々に自分で動いてよい、自ら動くべき、という感覚が生まれてきます。
例えば、部下や後輩が試行錯誤して出した結果に間違いがあったとしても「それではダメだ」と全否定せず、達成できたポイントを認めることも忘れないようにしましょう。
主体性に関する研修のポイントについては社員の主体性を最大限に引き出すための研修設計3つのポイントの記事も参考にしてみてください。
②働きかけ力
他人に働きかけ巻き込む力が「働きかけ力」です。
会社員として職場メンバーや顧客とやりとりするうえで、必要とされる力でしょう。
働きかけ力を伸ばすためには、身近な人間関係から他者に働きかけていくことが効果的です。
仕事のなかでは部署を横断するプロジェクトに参加させたり、勉強会を主催させる等して、自ら他者とやりとりする環境に身を置くことで、伸ばしやすい力です。
特に新入社員の場合は、見知らぬメンバーに積極的に声をかけにくい状況もあるかと思います。上司や先輩が他のメンバーや他部署メンバーを紹介する等、働きかけしやすい接点をつくりだすと効果的です。
③実行力
目的を設定し確実に行動する力が「実行力」です。
単に行動をするだけではなく、あくまで目的や目標をかなえるために適切な行動をとることがポイントとなります。
実行力を伸ばすためには、実現可能性が高い目的・目標の設定からチャレンジすることが有効です。
あまりに高い目的・目標を掲げてしまうと、実行の道筋が立てにくくなります。その結果、最初の一歩目が踏み出せず、足が止まってしまう可能性があるからです。
「少し頑張れば達成できそう」というレベルの目的・目標を達成することで、次はより高レベルの目標に向けての実行力が高まるはずです。
2.2考え抜く力(シンキング)
この力は、課題に対して疑問を持ち、諦めずに考え抜く力です。
3つの構成要素について具体的に紹介していきます。
④課題発見力
現状を分析し目的や課題を明らかにする力が「課題発見力」です。
仕事をしていくうえで課題を発見し、それを解決するための基本の力といえます。
課題発見力を伸ばすためには、まずは本人に考えさせ、フィードバックを重ねることが有効です。
特に新卒入社者の場合は、会社で発生する「課題」の見立てに慣れていないことが想定されます。課題の発見方法や、それを他者に伝える方法等を周囲がフィードバックすることで、徐々に力が高まっていくでしょう。
ただしいきなり正解を教えるのではなく、本人に考えさせることが重要です。正解を先に教えてしまうと本人の考える力が鍛えられないため、注意してください。
⑤計画力
課題の解決に向けたプロセスを明らかにし準備する力が「計画力」です。
作業を進めるうえでの段取りを、組み立てる力とも置き換えられます。
計画力を伸ばすためには、納期だけを設定させるのではなく「何をいつ、どれくらいの時間で」作業をするかを見積もらせるようにしましょう。
そのうえで作業終了後には振り返りを行い、その見積もりが正しかったかを検証していきます。
徐々に慣れてきたら少し難易度の高い計画を設定して、効率よく仕事をする訓練をしていきます。
⑥創造力
新しい価値を生み出す力が「創造力」です。
人によって得手不得手が分かれ、なおかつすぐには鍛えられない要素のひとつです。
経験や知識を増やすことで鍛えられる力ではありますが、まずは日々いろいろな事にアンテナを張って自身の経験としていってもらうことが大切です。
ある程度の経験と知識量が得られたら「デザイン思考」等を取り入れることで、創造力を伸ばせる可能性が高まります。
2.3チームで働く力(チームワーク)
チームで働く力は、多様な人々とともに、目標に向けて協力する力です。
ここでは6つの構成要素について、具体的に紹介していきます。
⑦発信力
自分の意見を分かりやすく伝える力が「発信力」です。
相手にどの程度伝わっているかは分かりにくいため、自分の発信力が把握できないという方も多いのではないでしょうか。
この力を伸ばすには、本人の発言の内容が伝わったかフィードバックすることが必要です。
発信力のフィードバックは大きな仕事だけでなく、日常業務でも可能です。
例えばeメールでのやりとりに対して、伝わる順番で内容が書かれているか、受け手にきちんと伝えたい情報が伝わっているかをフィードバックすることでも、鍛えていけるでしょう。
⑧傾聴力
相手の意見を丁寧に聴く力が「傾聴力」です。
単に「聞く」だけでなく、相手の心情や意図に配慮して「聴く」ことがポイントになります。
この力を伸ばすには、例えば、コミュニケーションを取り合うようなグループワークの実施が効果的です。
傾聴力が高いイメージとしては、対談番組やニュース等に出てくるインタビュアーがよい例です。相槌のタイミングや、人の話を聞いて意見をどのように引き出しているかを参考にしてもらうのもよいでしょう。
⑨柔軟性
意見の違いや立場の違いを理解する力が「柔軟性」です。
ある程度仕事に慣れてくると、自分なりのルールができて柔軟性が発揮しにくくなるといわれています。
この力を伸ばすには、業務では関わりの少なかった人と接点を持つことが有効です。一緒にプロジェクトを進めたり、異なる環境で仕事を進めたりする等して、刺激や考え方の違いを体感させるのがよいでしょう。
重点的に鍛えたい場合は、会社をまたぐようなプロジェクトや、海外へ行って異国の文化に触れるのも有効な手段のひとつといえます。
⑩状況把握力
自分と周囲の人々や物事との関係を理解する力が「状況把握力」です。
自分の業務に集中するだけではなく、周囲の状況も把握し、配慮する力ともいえます。
この力を伸ばすには、何かに集中して取り組ませるのではなく、周囲のメンバーのフォローを積極的に行ってもらうことが効果的です。
周囲の状況が判断できるようになると、自分の強みや特長に基づいた貢献領域が分かってくるため、主体的に動けるようになってきます。
⑪規律性
社会のルールや人との約束を守る力が「規律性」です。
規律性が欠けていると、チーム単位での仕事がスムーズに進みにくくなります。
この力を伸ばすためには、約束や期日、社内ルール等、基本的な行動から始めることが重要です。
しかし、あまりに厳しくルールを守らせてしまうと、やや窮屈な雰囲気にもなってしまいます。本人が取った行動で周囲が困惑したり迷惑したりした場合に、自分の起こした行動の結果を振り返る機会を与えるようにしましょう。
⑫ストレスコントロール力
ストレスの発生源に対応する力が「ストレスコントロール力」です。
仕事をするなかである程度のストレスは避けて通れないため、自分で対応していく力が重要になります。
この力を伸ばすには、感情だけにとらわれるのではなく、どう乗り越えるかの対応策を考えさせることが効果的です。
人の性格によってストレスの感じ方は変わってきます。指導側は本人の特性に合わせた育成が重要になるでしょう。
ここまでまとめた項目に加えて、チームで働くためにはチームビルディングに関する知識を身に付けておくことも有効です。
再定義で追加された社会人基礎力の3つの観点
昨今では、個人と企業や社会との接点が長くなる「人生100年時代」の潮流があることで、社会人基礎力の重要性がさらに増してきています。
そこで経済産業省は、2018年に個人がライフステージの各段階で活躍し続けるために「人生100年時代の社会人基礎力」として新たに定義しました。
これにより社会人基礎力は、若手社員だけでなく、シニア社員をはじめとした幅広い年齢層の社会人にとって必要な能力と認識されたのです。
ここからは新たに定義に加わった、3つの視点を紹介していきます。
学ぶ「何を学ぶか」
社会人基礎力として新たに取り入れられたのが「学び」という視点です。
学びと聞くと、子供や学生がする学校での学習というイメージが強いかもしれません。
しかし、昨今よく耳にする「生涯学習」「リカレント教育」等のように、社会人になってから新しい分野にチャレンジするために、学ぶ機会も増えてきています。
企業も労働力不足を回避するために、社員に新たなスキルを付与するリスキリングの取り組みが広まっています。
学ぶ内容も一律とは限りません。苦手な部分を克服する学びや、得意な分野をさらに伸ばす学び等、目的に応じて学ぶ内容も変わってくるでしょう。
統合「どのように学ぶか」
何を学ぶのかを明確にしたあとは、「どのように学ぶか」を検討する必要があります。
単に新しい知識を取り入れるのではなく、これまで培ってきた能力や経験、すでに身に付いているスキルと結び付けて、体系的に学ぶことが重要です。
統合的な視点でとらえると、一からすべてを学ぶより効率的に新しい知識が定着するだけでなく、経験に裏打ちされた実践的な能力が得られます。
また、周囲の人たちで各々の得意分野と絡めて学び合いをするのも、学びが企業風土に昇華しやすいので、お勧めの方法です。
目的「どう活躍するか」
学んだうえで「自分が活躍するイメージを固め、そこに向かって行動を起こす」ことは、モチベーションを維持しやすいでしょう。
キャリアアップや新しい業務へのチャレンジなど、人によって目的は違いますが、目的達成に向けて自ら行動する部分は同じです。
一歩前に踏み出し、例え失敗したとしても忍耐強く取り組む力は「前に踏み出す力」の開発にも効果的でしょう。
社会人基礎力の診断方法
社会人基礎力の概要を理解したうえで、自分や、自分のチームメンバーがどの程度の力を備えているか把握したいという方もいるのではないでしょうか。
社会人基礎力を診断する代表的な3つの方法を紹介します。
社会人基礎力検定|一般財団法人 社会人基礎力検定協会
「社会人基礎力検定」は、社会人基礎力検定協会が実施している検定試験です。検定問題は60問で、90分で回答します。
結果は3級・準2級・2級で判定されます。
出題されるのは同一問題ですが、級に応じて合格基準がそれぞれ設定される形式です。70〜80%未満の点数で3級合格、80〜90%未満の点数で準2級合格、90%以上の点数で2級合格となります。
ひらく社会人基礎力診断テスト120|経済産業省
経済産業省が実施している「ひらく社会人基礎力診断テスト120」は、セルフチェック式の診断テストです。
設問は120問用意されており、4つの選択肢のなかから当てはまるものを選びます。「よく当てはまる」から「全く当てはまらない」の選択肢から適したものを選ぶだけです。
Web上で回答したあとに自動的にグラフが作成されるので、強みや弱点を視覚的に把握できます。
社会人基礎力診断|マイナビ
「社会人基礎力診断」は、採用に関するサービスを提供しているマイナビが実施している、Webで回答する診断テストです。
回答時間の目安は15分程で、分析後にデータが送付されるため、容易に社会人基礎力の診断ができます。
マイナビの社会人基礎力診断では、ビジネス上の得意部分や苦手部分を把握し、改善するイメージがしやすくなるのが大きな特長です。個人だけではなく、採用担当者にも活用されています。
社会人基礎力の高め方
最後に、どの社会人基礎力の要素を高めるとしても、共通して推奨したい高め方のステップを紹介します。
「何を鍛えるか」を明確にする
社会人基礎力にはさまざまな能力要素があるため、まず「何を鍛えるか」を明確にすることが重要です。
自部門で鍛えたい力を設定する、本人の申請で鍛えたい力を決める等の方法があります。
どの力を鍛えるとしても、一人ひとりの成長が会社の成長につながることを意識してもらうようにしましょう。
「どう鍛えるか」を決める
「どう鍛えるか」も、鍛える力によってさまざまな方法があります。
OJTや研修受講、社外での学習費用の支援、社内の配置転換等が代表的な育成手法です。
全社一律で社会人基礎力を身に付けてもらう場合は、社会人基礎力専用の育成プログラムを持っている外部に依頼するのもお勧めです。
通常業務で能力を開発する
社会人基礎力は、特別なプログラムだけではなく、通常業務のなかでも少しずつ開発可能です。
例えば、主体性を開発したい社員がいた場合は、会議の場で積極的に発言を促す等の工夫が挙げられます。
通常業務で能力開発を行う場合は、マネジメントのサポートも重要になります。期初の面談で「どの力を今期は鍛えよう」と本人とすり合わせを行い、期中の動きを見守るようにしましょう。
効果測定・振り返りを行う
社会人基礎力の向上には、フィードバックによる客観的な振り返りが役立ちます。
上司や同僚、仕事で関わりのある人等からのフィードバックを取り入れることで、自分では気付いていない部分を発見できる可能性があります。
一人ひとりの振り返りを行うのとともに、マネジメントや人事部門は組織全体の効果測定を行い、次に鍛える力の設定につなげるようにしましょう。
まとめ
社会人基礎力とは、主体性やチームワーク等、仕事をするうえで必要になる基礎的な能力です。
社会人基礎力を向上させるのは、企業にとってのメリットだけではなく、個人にとってもポジティブな影響があります。
人的資本経営の潮流がある昨今においては、ぜひ自社人材の能力の底上げとして、社会人基礎力の向上を心がけてはいかがでしょうか。
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