2023.10.31
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企業研修が、講師からの一方的な知識やスキルの伝授に終始している企業も少なくないかもしれません。
研修の目的は、仕事で成果を生むことにあります。
しかし、受け身な学習スタイルがメインとなり、インプットした知識をどう活用するかは参加者に委ねているだけという状態では、仕事での活用は期待できません。往々にして「学びっぱなし」「研修効果が見えない」といった結果に終わってしまいがちです。
今回は、社員の主体性を最大限に引き出すための、研修設計のノウハウについてお伝えします。
社員の主体性が求められる背景
昨今のビジネスを取り巻く環境は、VUCAの時代といわれています。
V(Volatility:変動性)、U(Uncertainty:不確実性)、C(Complexity:複雑性)、A(Ambiguity:曖昧性)の頭文字を取った略称です。
このような、先行きが不透明・複雑で将来の予測が見通しにくい時代には、社員一人ひとりが主体的に考え、行動する重要性が増しています。
例えば、新型コロナウイルス感染症の流行は多くの企業では予想不可能だっただけでなく、実際に企業業績にダメージを受けたという企業も少なくはないでしょう。
このような状況下では、トップダウンの意思決定だけですべての事象に対応していくことは現実的ではありません。上層部からの指示を待っているだけでは、指示が社員にいきわたる頃には、また状況が変化しているということも考えられるからです。
先行きが見通せず、前例もない状況下では、社員一人ひとりが主体性を発揮して、新規事業や新しい提供プロセスの考案、これまでとは異なる働き方への挑戦をしていく必要があります。
主体性が高い社員の特長
ビジネス書として広く知られる『7つの習慣』のなかで、スティーブン・R・コヴィー博士は習慣のひとつとして「主体性を発揮する」ことを提唱しています。
ビジネスシーンに限らず、何かのハプニングが起こった際には、自分自身で行動を選択する必要があるでしょう。このように、元来主体性は特別な訓練で取得するのではなく、すべての人間にそれを発揮する能力が備わっているのです。
ただ、ビジネスシーンでは主体性を発揮している社員と、発揮していない社員に分かれてしまっているのが現実です。
ここでは、あらためて主体性が高い社員の特長を紹介していきます。
特長1. 自分の言動に責任を持つ
主体性が高い社員は、自身の言動に責任を持とうとする傾向があります。
物事の判断基準や行動基準が、自分の価値観やポリシーに基づいており、言動の根拠がはっきりしているためです。
その影響で、自身の言動がもたらした結果に対して、他責ではなく自責思考が働きます。
例え望ましい結果が得られなかった場合であっても、自らの責任と考え内省し、今後に向けての対策を考える等、「失敗から学ぶ」姿勢が強い点が特長です。
一方、主体性が低い社員は、他責傾向が強くなります。
起こった事象に対して「上からの指示通りにやっただけ」や「自分が決めたわけではないから」等と、自分の意志の関与を否定するような言動が増えてしまいがちです。
特長2. 何事にも積極的・能動的
主体性が高い社員は、あらゆることに対して能動的に行動します。
詳細な指示を待つのではなく、自らやるべきこと・やれることを探し出そうとする傾向にあります。
また、日頃から問題意識や課題意識を持っているため、変化に対して気付くスピードが早いことも特長です。
主体性が高い社員はビジネスパーソンとしての成長意欲も強いため、自ら社員としての価値を高めようとし、キャリアアップの道を切り拓くこともできます。
一方、主体性が低い社員は、「待ち」の行動が多くなります。
「待ち」姿勢の社員が多い場合、マネジメントからの指示を待っている時間が無駄になるため、当然ビジネス全体のスピード感が損なわれます。
さらに、細かい指示まで求める社員の場合は、マネジメントの負荷も増すでしょう。
特長3. 周囲に働きかける
主体性が高い社員は、上下の社員や横の部門等、周囲に積極的に働きかける傾向があります。
また、分からないことや問題点をそのまま放置することはありません。自ら調べたり対策を考案したりしたうえで、上司や先輩に質問する点も特長です。
一方、主体性が低い社員は、自分の内側に閉じこもる傾向が強くなります。
分からないことがあっても周囲に質問することが少ないため、不明点を抱えたまま仕事を進めてしまいがちです。その結果、仕事のミスを引き起こすリスクも増えてしまいます。
主体性を高める研修のポイント
人材開発分野の第一人者であり、参加者を主体とした研修方法の実践者として世界的に有名なボブ・パイク氏は、脳科学の見地から、人は「与えられた目標」より「自ら立てた目標」の方が頑張れると述べています。
受け身の学習方法よりも、学ぶ側が積極的に参画する方が理解度も知識の定着率も断然高いことが科学的にも証明されています。
研修は参加者の主体性を尊重してデザインすべきとの認識が米国を中心に主流となっています。
例えば、席順、役割分担、課題、発表の順番等の段取りを決めず、参加者に委ねます。
研修の枠組みは提供しますが、細部に関しては参加者自身に決めてもらうことで参加意識を高めます。
参加者が取り組む課題も、ケーススタディ、ロールプレイ、演習問題、ワークショップ等、複数から自主的に選んでもらいます。そうすることで、参加者がより実践に近いシチュエーションを自ら考えて取り組めます。
主体性を高める具体的な研修デザインとは
具体的に、どのような研修デザインが参加者の主体性を引き出せるのでしょうか。主体性を高めるために効果的な、5つのポイントを説明します。
①答えを用意しない
講義型の研修は無意味なものではありませんが、覚えるべき情報や活用するシーン等、すべてを講師から学ぶだけでは、そこに参加者の主体性はありません。
参加者自らが気づき考えながら学ばない限りは、単なる知識の「伝授」に過ぎず、知識の定着や職場での実践に結びつきにくいのです。
脳科学的見地からすると、提供した情報やノウハウを職場で活用できる具体的なシーンを参加者自身に考えてもらってこそ、現実へとフィードバックしやすくなり「成果」を生むのです。
②グループ発表でやり取りを増やす
研修においては、参加者の質問が主体性を高めるプロセスとして欠かせません。「質問」は研修の内容を理解、考察し、不明点や新しい側面を発見することなので、参加者がどれだけ知識を吸収したかを測るバロメーターでもあります。
しかし、日本人の「他人の前で変な質問をすると恥ずかしい」というメンタリティが邪魔をして、活発な質疑応答になりにくいケースが多々あります。
その対策としては、グループディスカッションで事前に質問内容をまとめてもらい、それを発表する形式にするとよいでしょう。個々の発言を取りまとめることができるため、一人ずつの質疑応答スタイルよりも多くの質問が寄せられるはずです。
③ロールプレイングで動きを取り入れる
一方的な講義形式だけでなく、研修参加者にその場で実践させるロールプレイングを取り入れることも、主体性を高めやすいポイントといえます。
例えば、営業のテクニックの情報を講義形式で教えた後に、あるケースを想定して、実践さながらに参加者自ら営業をしてもらうようなカリキュラムを入れる等です。
講義を聞いて分かったつもりになっていても、ロールプレイングではうまくいかないポイントが見つかる可能性もあります。
自らやってみてできない経験をすることで、「なぜうまくできなかったのか」と主体的な問題意識が芽生えることも期待できるでしょう。
④上司向けにも研修を実施する
社員に主体性を求めるなら、上司にもメンバーの主体性を引き出すような訓練が必要となります。
例えば、「メンバーが話しているのに途中で遮ってしまう」「すぐに正解を教えてしまう」「自分の指示を押し付けてしまう」等は、社員の主体性を引き出せない代表的なNG行動といえます。
そのような場合は、上司向けに部下の主体性を引き出すための研修を実施しましょう。
上司が変化すれば、主体性を発揮する社員の面積の広がりが期待できるため、組織的に前向きな変化が起こりやすくなります。
まとめ
研修の目的は、学んだ知識を実践に活かすことであり、研修そのものは成果に至るまでの通過点です。
研修を形式的なイベントで終わらせるのではなく、職場に戻った参加者の行動を変えるような研修をめざしましょう。
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