個人情報保護法の違反事例4選|罰則や6つの対策を解説

2024.04.25

人材教育

eラーニング

キーワード
  • コンプライアンス
  • 個人情報保護
個人情報保護法の違反事例4選|罰則や6つの対策を解説

万が一、顧客の個人情報が流出してしまった場合、企業は罰則を受けるだけでなく顧客や社会からの信用を失い、経営が難しくなる可能性があります。

このようなリスクを避けるには、個人情報保護法の過去の違反事例から個人情報が漏えいする原因や適切な対策を把握しておくことが大切です。

今回は、個人情報保護法の4つの違反事例やヒヤリハット事例を紹介します。

個人情報漏えいを防ぐ対策も紹介しているので、従業員のセキュリティ意識を高めるためにもぜひ参考にしてみてください。

個人情報保護法とは

個人情報保護法とは、消費者や利用者が安心して企業に個人情報を提供できるように定められた法律です。

個人情報保護法における個人情報は、氏名や生年月日、住所、顔写真等生存している特定の個人を識別できる情報を指します。

個人情報保護法では個人情報を取り扱う事業者が守るべきルールを以下のように定めています。

  • 個人情報を取り扱う際は利用目的を特定し、本人に通知する必要がある
  • 取得した個人情報は利用目的の範囲で利用しなければならない
  • 個人情報の漏えいが起きないように適切な措置を講じなければならない
  • 個人情報を第三者に提供するときは本人の同意が必要となる
  • 本人から請求があったときは個人情報の利用停止等に対応する必要がある 等

なお、以下のような事案が発生したとき、または発生した恐れがあるときは、速やかに個人情報保護委員会に報告し、本人へ通知しなければなりません。

  • 人種や病歴といった要配慮個人情報の漏えい
  • クレジットカード番号等の財産的被害の恐れがある漏えい
  • 不正目的の恐れがある漏えい
  • 1,000人を超える個人データの漏えい

参照:「個人情報保護法」をわかりやすく解説 個人情報の取扱いルールとは?

個人情報保護法違反によるリスク

個人情報保護法違反には、罰則を受けたり社会的信用を失ったりするリスクがあります。

ここでは、個人情報法保護違反によるリスクを詳しく解説します。

罰則を受けるリスク

個人情報保護委員会は個人情報保護法に違反する行為をした事業者に対し、報告徴収・立ち入り検査を実施し、実態に応じて指導や命令を行うことができます。

個人情報保護委員会に虚偽の報告をしたときや、国からの命令に違反したときは以下の罰則が科せられます。

行為者 会社
虚偽報告 50万円以下の罰金 50万円以下の罰金
命令違反 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 1億円以下の罰金

参照:個人情報取扱事業者等が個人情報保護法に違反した場合、どのような措置が採られるのですか。

また、従業員が不正に利益を得る目的で個人情報データベースを提供、もしくは盗用した場合は、行為者に対して1年以下の懲役または50万円以下の罰金、会社に対して1億円以下の罰金が科せられる可能性があります。

これらの刑事上の罰則にくわえて、民事上の損害賠償責任が発生することもあり、個人情報の漏えいは経営に大きな影響を与えることになるでしょう。

社会的信用を失うリスク

個人情報の漏えいといった個人情報保護法の違反行為は、企業の社会的信用を失うことにつながります。

企業イメージが下がってしまうと、顧客離れにより業績が悪化する可能性があります。

例え直接的な業績悪化につながらなくとも、株価の下落によって資金調達が困難になったり退職者が増加したりすることで経営が厳しくなり、最悪の場合は倒産する可能性も考えられるでしょう。

個人情報保護法の違反事例

ここからは、個人情報保護法の違反事例を紹介します。*具体的な社名等は控えております

個人情報の漏えいを防止するためにも、具体的な違反事例からどのようなリスクが潜んでいるかを把握しておきましょう。

事例①不正アクセスによる個人情報流出

メッセージアプリの利用者の個人情報が不正アクセスで流出し、運営会社に個人情報保護法違反があったとして、個人情報保護委員会は、通信アプリを提供している会社に是正勧告を出すと同時に、個人データを扱う際の安全管理体制に不備があったと認定し、運営会社に改善状況の報告を求めました。

事例②従業員による個人情報の不正持ち出し

大手通信会社の子会社から約900万件の個人情報が流出し、個人情報保護委員会は子会社2社に対し、情報管理体制の不備等による個人情報保護法違反があったとして是正勧告を出しました。

取引先の企業や自治体等が取り扱っている個人データ約900万人分を元派遣社員の男が不正に持ち出し、漏えいしたとされています。

個人情報の流出被害に遭った企業や自治体が、大手通信会社側に対して損害賠償請求に踏み切ることも予想されます。

事例③顧客企業に対する個人情報の販売

就職情報サイトの運営会社が就活生の同意を得ずに「内定辞退率」の予測を顧客企業に販売していた事例です。

同意を得ずに約8,000人の利用者のデータを第三者に提供したこと等が、個人情報保護法違反にあたると判断されました。

くわえて、個人情報保護委員会から指摘を受けるまで状況を放置していた管理体制の不備も問題視され、適切な情報管理体制の整備を求められました。

事例④従業員による社外への個人情報の流出

教育事業を行う大手企業の関連会社で働いていた派遣社員が約4,800万人分の個人情報を不正に入手し、社外へ売却していた事例もあります。

この顧客情報流出事件をめぐり、東京地方裁判所は同社や関連会社に対し、被害にあった顧客ら約5,700人に1人当たり3,300円、総額約1,300万円の賠償を命じました。

個人情報保護法の違反につながるヒヤリハット事例

個人情報の漏えいを防ぐためには、個人情報保護法の違反につながりかねない具体的な事例を把握したうえで、適切な対策を立てることが大切です。

ここでは、個人情報保護委員会が公開しているヒヤリハット事例をいくつか紹介します。

同意のない第三者への情報提供

まずは、本人の同意なく第三者に個人情報を提供しそうになったヒヤリハット事例です。

学習塾で学生同士のトラブルが発生し、生徒Aが生徒Bにけがをさせた。

生徒Aの保護者が生徒Bとその保護者に謝罪するために生徒Bの連絡先を教えてほしいと言われ、その場で教えてしまいそうになった。

個人情報を第三者に提供するときは、本人の同意を得るのが難しいケースを除いて、同意を取らなければなりません。

この場合は、生徒Bやその保護者から同意を得たうえで、生徒Aの保護者に連絡先を伝えるのが適切な対応です。

本来の利用目的を超えた個人情報の取り扱い

2つ目は、事前に公表していた利用目的を超えて、個人情報を取り扱いそうになったヒヤリハット事例です。

小売店を営んでおり、人手不足のためにアルバイトを募集。

希望者が集まらないため、店のポイントプログラムに登録している顧客をアルバイトに勧誘しようと考え、事前に顧客の許可を取ることなく、電話をかけそうになった。

事業者が個人情報を取り扱う際は、利用目的を特定しなければなりません。

くわえて、本人の事前の同意がなければ、利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱うことはできません。

この事例では、ポイントプログラムのために取得した電話番号を採用活動に利用しようとしており、本来の利用目的を超えていると判断されます。

メールの宛先誤りによる個人情報の漏えい

メールの宛先誤りによって個人情報の漏えいにつながる可能性もあります。

特定の顧客の個人情報が含まれた資料を添付したメールを無関係の顧客にも送りそうになった。

宛先の誤りに気付かずにメールを送信した場合は、本人に同意を得ずに個人情報を第三者に提供する違反行為となります。

電子メールは、宛先や送信方法の誤りによって個人データの漏えいリスクが高まるため、送信前に宛先等に誤りがないか確認するといった対策を講じることが大切です。

出典:個人情報保護委員会Webサイト

個人情報保護法 ヒヤリハット事例集」(個人情報保護委員会)を一部編集

個人情報保護法違反を防止するための対策

個人情報保護法違反を防止するには、従業員へ定期的なセキュリティ教育を実施したり、個人情報を扱うときのルールを明確化したりすることが大切です。

ここからは、個人情報保護法違反を防止するための対策を解説します。

対策①従業員へ定期的なセキュリティ教育を実施する

東京商工リサーチの調査によると、2023年に公表した個人情報の漏えい・紛失事故は175件で、その原因は53.1%がウイルス感染・不正アクセス、24.5%が誤表示・誤送信となっています。
参考:東京商工リサーチ「2023年『上場企業の個人情報漏えい・紛失事故』調査」

この結果から、個人情報の漏えい・紛失事故の多くは、ウイルス感染を狙ったなりすましメールを開封したり、機密データを誤送信したりすることが原因となっているといえます。

従業員の人為的なミスによる個人情報の漏えいを防ぐには、定期的なセキュリティ教育を実施し、従業員のセキュリティ意識や情報リテラシーを向上させることが大切です。

サイバー大学の「Cloud Campusコンテンツパック100」では、セキュリティ教育を含む100教材以上のeラーニングを社員研修として利用できます。

研修をする社内リソースが確保できない場合でも、従業員に質の高いセキュリティ教育の実施が可能です。

>>Cloud Campus コンテンツパック100の詳細をチェックする

対策②パソコンやスマートフォンの持ち出しを制限する

社用のパソコンやスマートフォンを外部に持ち出すと、紛失や盗難によって個人情報が漏えいする可能性があります。

そのようなリスクを抑えるには、パソコンやスマートフォンの持ち出しを制限するのが効果的です。

例えば、持ち出す必要があるときには、事前に上司の許可を取るといったルールを設けてみましょう。

万が一に備えて、リモートでデータを消去できるソフトやアプリの導入をすることも有効です。紛失したり盗まれたりしたときでも、情報漏えいを防げる可能性があります。

対策③メールの誤送信を防ぐ仕組みをつくる

個人情報の含まれた添付ファイルを誤送信して、個人情報が漏えいするケースもあります。

メールの誤送信による情報漏えいを防ぐには、送信前の確認を呼びかけるだけでなく、人為的なミスを減らす仕組みをつくることが大切です。

具体的には、個人情報が含まれる重要なメールは、上司の承認を得たうえで送信するといったルールを導入するのが効果的です。

対策④個人情報を扱うときのルールを明確化する

従業員の不注意による個人情報の漏えいを防止するには、個人情報を扱うときのルールを明確化しておくことが大切です。

例えば、顧客情報を保存しているファイルやUSBを放置していると、紛失や盗難によって漏えいにつながる可能性があります。

会社のなかであっても、離席するときには所定の位置に必ず収納するといったルールを明確化しておけば、ファイルやUSBの紛失・盗難のリスクを抑えやすくなります。

対策⑤セキュリティソフトを導入する

個人情報が漏えいする主な原因に、ウイルス感染や不正アクセスがあります。

ウイルス感染や不正アクセスを回避するには、怪しいメールは開封しないといった人的対策だけでなく、セキュリティソフトを導入することが大切です。

なお、古いバージョンのセキュリティソフトでは、新しいウイルスやマルウェア(悪意のあるソフトウェア)に対応できなくなり、セキュリティ対策が不十分になってしまいます。

セキュリティソフト導入後は、定期的に更新をすることで、常に最新の状態を保つようにしましょう。

対策⑥従業員が報告しやすい環境にする

個人情報が漏えいした場合でも、社内ですぐに共有することで被害を最小限に抑えられる可能性があります。

そのため、普段から風通しのよい職場を意識し、ミスが発生したときでもすぐに報告できる環境をめざすことが大切です。

くわえて、事前に個人情報が漏えいした可能性があるときの対応マニュアルを作成しておけば、被害の拡大を抑えやすくなります。

まとめ

個人情報保護法違反には、罰則を受けるだけでなく、社会的信用を失うことで業績の悪化につながるリスクがあります。

そのため、個人情報保護法の過去の違反事例から、起こりうるリスクを予測して適切な対策を立てることが大切です。

個人情報の漏えいを防止するには、従業員に対して定期的にセキュリティ教育を実施するのが効果的です。

弊社では年間999円で100教材以上のeラーニング教材が見放題の「コンテンツパック100」を取り扱っております。

個人情報保護に関するコンテンツも収録しているため、手軽に従業員へのセキュリティ教育を実施したい場合はぜひご活用ください。

特にニーズの高いコンテンツだけを厳選することで、1ID 年額999円(税抜)の低コストを実現。

ビジネス・ITの基礎知識を学べるeラーニングコンテンツが見放題、Cloud Campusのプラットフォーム上ですぐに研修として利用できます。

社会人として身に付けるべきビジネスマナー等の基礎コンテンツを含む、100コース・1,500本以上の厳選動画をラインナップ。コース一覧や詳細は無料でこちらからご確認頂けます。

>>Cloud Campus コンテンツパック100の詳細をチェックする

この記事を書いた人

他の記事も見る

2023.09.15

eラーニングと集合研修|モチベーションアップに効果的なのはどちらか

2023.09.15

eラーニングと集合研修|モチベーションアップに効果的なのはどちらか

eラーニング

人材教育

企業が、競争力を強化し、成長していくためには、従業員一人ひとりのパフォーマンスを上げる必要があります。そして、従業員が自発的に仕事に従事していけるように、モチベーションを高める働きかけが欠かせません。その施策として、多くの企業で実施しているのが研修活動です。近年では、従来の集合研修に加え、ITを活用したeラーニングを取り入れる企業が増加していますが、果たしてeラーニングは従業員のモチベーションアップに役立つ研修方法なのでしょうか。集合研修と比較しながら、検証してみましょう。 eラーニングと集合研修はどこが違う? まずは、eラーニングと集合研修のメリットとデメリットについて確認しましょう。 eラーニングのメリットのひとつとして挙げられるのは、モバイルデバイスを利用すれば時間や場所の制約を受けることなく学習できる点です。集合研修では、会場の設置、講師の調達といった手間とコスト、参加者のスケジュール調整や移動費など時間と場所の制約が大きく、参加者の人数が増えるほど大きなマンパワーとコストが発生してしまいます。 また、全国展開する企業では、頻繁に集合研修を実施するのが難しいため、あらゆる面でスピード感に欠けてしまいます。その点、eラーニングは全拠点で均一の研修内容を提供可能で、コンテンツを内製すれば業務フローの変更にもスピーディに対応できます。 業務に即した内製コンテンツについては、「Cloud Campus(企業向け)」にて詳しくご覧いただけます。 個人の理解度や目標に沿って、自分のペースで学習ができることも、eラーニングのメリットのひとつです。最近では、脳科学の見地を活用し、学習エンジンが個々の弱点を判別してくれる「アダプティブラーニング」を取り入れたeラーニングも登場しています。 一方、集合研修には、講師やほかの参加者と対面することで、個人学習では得られない臨場感や相互啓発があります。それによって理解度がさらに深まったり、新しい気づきにつながったりすることは、大きなメリットといえるでしょう。 eラーニングのメリット 集合研修のメリット 受講者 ·時間や場所の制約なく、スキマ時間で学習できる·個人のペースで繰り返し学習できる ·理解度を自分で確認しながら、苦手分野を克服できる ·非日常性と臨場感 ·相互啓発ができる ·その場で疑問解決ができる ·その場でフィードバックがもらえる 提供者 ·時間や場所、人数の制約を受けず提供できる ·必要な内容をスピーディに提供できる ·多様なコンテンツを提供できる ·学習の進捗や履歴を把握できる ·効果測定がしやすい ·強制力がある ·一定のカリキュラムを確実に提供できる ·学習者の反応がすぐに確認できる ·一体感や帰属意識の醸成   eラーニングでも集合研修でも発生する「モチベーションの持続」問題にどう対処する? 集合研修は対人学習のため、一見モチベーションアップに高い効果を発揮すると思われますが、内容や進め方によっては受け身の学習となり、学んだ内容が定着しないというケースも多々あるので注意が必要です。 また、研修前の受講者の知識レベルや、研修内容と業務内容の兼ね合いで、受講者によっては研修レベルが低すぎる、もしくは高すぎるということにもなりかねません。そうなると、せっかく時間を割いたのに期待した効果が得られず、かえって受講者のモチベーションを下げてしまう可能性があります。 こうした問題の解決には、eラーニングと組み合わせたブレンディッド・ラーニングが効果的です。例えば、研修後にeラーニングでテストや繰り返して学習できる機会を提供する、研修前に受講者にeラーニングで事前学習してもらい知識レベルを高めておくといった解決方法があるでしょう。 ブレンディッド・ラーニングの詳細は、「ブレンディッド・ラーニングでスムーズな人材育成を!」でもお読みいただけます。 eラーニングだけでの研修は個人学習となるため、受講者のモチベーションを維持することが難しくなることがあります。特に、提供者が受講者にコンテンツを丸投げするだけの運用方法だと危険です。そうならないためにも、受講者の質問を受け付ける窓口の設置、テストの実施、褒賞の用意、受講者同士が交流できるSNSの提供など、常に受講者に寄り添うサポート体制を整えることが重要です。 ブレンディッド・ラーニングで高い学習効果を狙おう eラーニングと集合研修には、それぞれに長短所があります。業務内容や目的に合わせて使い分け、お互いを補完させるブレンディッド・ラーニングを実施することで、より高い学習効果を目指してみてはいかがでしょうか。 なお、弊社では「eラーニングコンテンツ」を多数取り扱っております。お手軽に学んでいただくことがでるので、ぜひご活用ください。 こちらの記事も読まれています: 新入社員にもベテラン社員にも社員研修が必要な理由 参考:  eラーニングの活用事例|日本の人事部   eラーニングとは?概要からメリットやトレンドまで徹底解説 eラーニング導入で失敗しないための3つのポイントを解説 効果の高いeラーニング教材の作り方と3つのポイント【企業事例付き】

2023.10.31

社員の主体性を最大限に引き出すための研修設計3つのポイント

2023.10.31

社員の主体性を最大限に引き出すための研修設計3つのポイント

eラーニング

人事制度・組織づくり

人材教育

企業研修が、講師からの一方的な知識やスキルの伝授に終始している企業も少なくないかもしれません。 研修の目的は、仕事で成果を生むことにあります。 しかし、受け身な学習スタイルがメインとなり、インプットした知識をどう活用するかは参加者に委ねているだけという状態では、仕事での活用は期待できません。往々にして「学びっぱなし」「研修効果が見えない」といった結果に終わってしまいがちです。 今回は、社員の主体性を最大限に引き出すための、研修設計のノウハウについてお伝えします。 社員の主体性が求められる背景 昨今のビジネスを取り巻く環境は、VUCAの時代といわれています。 V(Volatility:変動性)、U(Uncertainty:不確実性)、C(Complexity:複雑性)、A(Ambiguity:曖昧性)の頭文字を取った略称です。 このような、先行きが不透明・複雑で将来の予測が見通しにくい時代には、社員一人ひとりが主体的に考え、行動する重要性が増しています。 例えば、新型コロナウイルス感染症の流行は多くの企業では予想不可能だっただけでなく、実際に企業業績にダメージを受けたという企業も少なくはないでしょう。 このような状況下では、トップダウンの意思決定だけですべての事象に対応していくことは現実的ではありません。上層部からの指示を待っているだけでは、指示が社員にいきわたる頃には、また状況が変化しているということも考えられるからです。 先行きが見通せず、前例もない状況下では、社員一人ひとりが主体性を発揮して、新規事業や新しい提供プロセスの考案、これまでとは異なる働き方への挑戦をしていく必要があります。 主体性が高い社員の特長 ビジネス書として広く知られる『7つの習慣』のなかで、スティーブン・R・コヴィー博士は習慣のひとつとして「主体性を発揮する」ことを提唱しています。 ビジネスシーンに限らず、何かのハプニングが起こった際には、自分自身で行動を選択する必要があるでしょう。このように、元来主体性は特別な訓練で取得するのではなく、すべての人間にそれを発揮する能力が備わっているのです。 ただ、ビジネスシーンでは主体性を発揮している社員と、発揮していない社員に分かれてしまっているのが現実です。 ここでは、あらためて主体性が高い社員の特長を紹介していきます。 特長1. 自分の言動に責任を持つ 主体性が高い社員は、自身の言動に責任を持とうとする傾向があります。 物事の判断基準や行動基準が、自分の価値観やポリシーに基づいており、言動の根拠がはっきりしているためです。 その影響で、自身の言動がもたらした結果に対して、他責ではなく自責思考が働きます。 例え望ましい結果が得られなかった場合であっても、自らの責任と考え内省し、今後に向けての対策を考える等、「失敗から学ぶ」姿勢が強い点が特長です。 一方、主体性が低い社員は、他責傾向が強くなります。 起こった事象に対して「上からの指示通りにやっただけ」や「自分が決めたわけではないから」等と、自分の意志の関与を否定するような言動が増えてしまいがちです。 特長2. 何事にも積極的・能動的 主体性が高い社員は、あらゆることに対して能動的に行動します。 詳細な指示を待つのではなく、自らやるべきこと・やれることを探し出そうとする傾向にあります。 また、日頃から問題意識や課題意識を持っているため、変化に対して気付くスピードが早いことも特長です。 主体性が高い社員はビジネスパーソンとしての成長意欲も強いため、自ら社員としての価値を高めようとし、キャリアアップの道を切り拓くこともできます。 一方、主体性が低い社員は、「待ち」の行動が多くなります。 「待ち」姿勢の社員が多い場合、マネジメントからの指示を待っている時間が無駄になるため、当然ビジネス全体のスピード感が損なわれます。 さらに、細かい指示まで求める社員の場合は、マネジメントの負荷も増すでしょう。 特長3. 周囲に働きかける 主体性が高い社員は、上下の社員や横の部門等、周囲に積極的に働きかける傾向があります。 また、分からないことや問題点をそのまま放置することはありません。自ら調べたり対策を考案したりしたうえで、上司や先輩に質問する点も特長です。 一方、主体性が低い社員は、自分の内側に閉じこもる傾向が強くなります。 分からないことがあっても周囲に質問することが少ないため、不明点を抱えたまま仕事を進めてしまいがちです。その結果、仕事のミスを引き起こすリスクも増えてしまいます。 主体性を高める研修のポイント 人材開発分野の第一人者であり、参加者を主体とした研修方法の実践者として世界的に有名なボブ・パイク氏は、脳科学の見地から、人は「与えられた目標」より「自ら立てた目標」の方が頑張れると述べています。 受け身の学習方法よりも、学ぶ側が積極的に参画する方が理解度も知識の定着率も断然高いことが科学的にも証明されています。 研修は参加者の主体性を尊重してデザインすべきとの認識が米国を中心に主流となっています。 例えば、席順、役割分担、課題、発表の順番等の段取りを決めず、参加者に委ねます。 研修の枠組みは提供しますが、細部に関しては参加者自身に決めてもらうことで参加意識を高めます。 参加者が取り組む課題も、ケーススタディ、ロールプレイ、演習問題、ワークショップ等、複数から自主的に選んでもらいます。そうすることで、参加者がより実践に近いシチュエーションを自ら考えて取り組めます。 主体性を高める具体的な研修デザインとは 具体的に、どのような研修デザインが参加者の主体性を引き出せるのでしょうか。主体性を高めるために効果的な、5つのポイントを説明します。 ①答えを用意しない 講義型の研修は無意味なものではありませんが、覚えるべき情報や活用するシーン等、すべてを講師から学ぶだけでは、そこに参加者の主体性はありません。 参加者自らが気づき考えながら学ばない限りは、単なる知識の「伝授」に過ぎず、知識の定着や職場での実践に結びつきにくいのです。 脳科学的見地からすると、提供した情報やノウハウを職場で活用できる具体的なシーンを参加者自身に考えてもらってこそ、現実へとフィードバックしやすくなり「成果」を生むのです。 ②グループ発表でやり取りを増やす 研修においては、参加者の質問が主体性を高めるプロセスとして欠かせません。「質問」は研修の内容を理解、考察し、不明点や新しい側面を発見することなので、参加者がどれだけ知識を吸収したかを測るバロメーターでもあります。 しかし、日本人の「他人の前で変な質問をすると恥ずかしい」というメンタリティが邪魔をして、活発な質疑応答になりにくいケースが多々あります。 その対策としては、グループディスカッションで事前に質問内容をまとめてもらい、それを発表する形式にするとよいでしょう。個々の発言を取りまとめることができるため、一人ずつの質疑応答スタイルよりも多くの質問が寄せられるはずです。 ③ロールプレイングで動きを取り入れる 一方的な講義形式だけでなく、研修参加者にその場で実践させるロールプレイングを取り入れることも、主体性を高めやすいポイントといえます。 例えば、営業のテクニックの情報を講義形式で教えた後に、あるケースを想定して、実践さながらに参加者自ら営業をしてもらうようなカリキュラムを入れる等です。 講義を聞いて分かったつもりになっていても、ロールプレイングではうまくいかないポイントが見つかる可能性もあります。 自らやってみてできない経験をすることで、「なぜうまくできなかったのか」と主体的な問題意識が芽生えることも期待できるでしょう。 ④上司向けにも研修を実施する 社員に主体性を求めるなら、上司にもメンバーの主体性を引き出すような訓練が必要となります。 例えば、「メンバーが話しているのに途中で遮ってしまう」「すぐに正解を教えてしまう」「自分の指示を押し付けてしまう」等は、社員の主体性を引き出せない代表的なNG行動といえます。 そのような場合は、上司向けに部下の主体性を引き出すための研修を実施しましょう。 上司が変化すれば、主体性を発揮する社員の面積の広がりが期待できるため、組織的に前向きな変化が起こりやすくなります。 まとめ 研修の目的は、学んだ知識を実践に活かすことであり、研修そのものは成果に至るまでの通過点です。 研修を形式的なイベントで終わらせるのではなく、職場に戻った参加者の行動を変えるような研修をめざしましょう。 一緒に読まれている記事 ・やりっぱなしダメ!研修の効果測定をしよう ・時間、コスト…社内研修を取り巻く問題とその改善方法 ・社内研修の種類や効果を高めるための実施プロセスとは?

2023.05.19

オンライン研修の効果的なやり方|主催側と受講側どちらも徹底解説

2023.05.19

オンライン研修の効果的なやり方|主催側と受講側どちらも徹底解説

eラーニング

人材教育

「オンライン研修を実施したことがないので、具体的なやり方が分からない」 「今まで対面・集合型研修だけをやってきたものの、最近はオンライン研修に興味がある」 昨今は、時差出勤やテレワークなどが進んだ影響で、一人ひとりの働き方に合わせた教育手法が求められています。 そんななかで、どこにいてもモニター越しで教育が受けられると注目を浴びているのがオンライン研修です。 しかし、オンライン研修を検討されている方からは、具体的な実施のプロセスや、効果を上げるポイントが分からないという声も聞かれます。 今回は、オンライン研修のやり方を、主催者側と受講者側の双方の視点から解説します。 はじめてオンライン研修を実施する方や、現在実施しているオンライン研修の効果を上げたいとお考えの方は、ぜひ参考にしてください。 普及が進むオンライン研修 過去にも研修をオンラインで開催する動き自体はありましたが、ここ数年で企業や教育機関で一気に普及が広がりました。 かつては、講師と受講者のコミュニケーションの取りやすさから、研修は直接対面する集合研修で行われることが一般的でした。 しかし、新型コロナウイルスの影響により、2021年の春頃から「感染症対策として、人の移動の制限下でも研修ができる」というメリットがあるオンライン研修が注目され始めたのです。 withコロナの時代になった昨今においても、オンライン研修のメリットを実感した企業は、引き続き実施を続けています。また、参加人数や研修テーマに応じて、対面・集合型とオンライン研修を使い分けする企業も多いようです。 今や、主催者側にとっても受講者にとっても「研修や勉強会はオンライン上で行うこと・受講すること」が当たり前の時代になったといえるでしょう。 オンライン研修の形式 オンライン研修は、主に2つのパターンで行われます。ここでは、オンライン研修の種類とそれぞれのメリットをご紹介します。 2-1.双方向型 双方向型は、Webツールを使ってリアルタイムで講義を実施・受講する方法です。 インターネット環境が整っていれば実施ができるため、会場の確保や会場への移動など、場所の制約を受けません。 講師と受講者は質疑応答のやり取りができることに加え、受講者同士のグループワークもできるメリットもあります。 ただリアルタイムで実施するため、場所の制約はなくとも、時間の制約はあります。主催者側も受講者側も、事前のスケジュール調整は必要です。 2-2.オンデマンド型 あらかじめ録画された講義を、受講者が閲覧して受講する方法です。 参加者は、自分の好きな時間に受講できます。研修に参加するためにスケジュール調整をしなくてもよい点がメリットです。 ただしリアルタイムで受講しているわけではないため、質疑応答がすぐにできない、集中力が続きにくいなどが、デメリットとして挙げられます。 オンライン研修のやり方(主催者側) オンライン研修は、準備~実施後フォローまで一般的に5つのプロセスが必要です。一つひとつ紹介します。 3-1. 研修概要を決定する 実施する研修内容や受講者を考え、スケジュールを決定します。 オンライン研修は、一般的に技能研修や接客研修など、動きがともなうテーマには不向きとされています。オンライン上でも可能な研修テーマを選ぶ必要があるので、注意しましょう。 オンライン研修実施の概要が決まったら、続いてスケジュールを組みます。 双方向型はリアルタイムで行われるので、講師や受講者の日程を調整しなければいけません。研修の日程が決まれば、関係者に通知して予定を空けておいてもらいましょう。 研修実施日に合わせて、事前課題のアナウンスや研修テキストの共有も忘れずにスケジュールに組み込んでください。 3-2. Webツールを決定する オンライン研修を実施するためには、使用するWebツールを決めなければいけません。 具体的には、「Zoomミーティング」「Microsoft Teams」といった、Web会議ができる配信ツールが必要になります。無料で使えるツールもありますが、時間や人数の制限がある場合は、有料プランに加入することが必要です。 昨今はWeb会議ツールだけでなく、学習管理から研修コンテンツの制作まで一括管理できるCloudツールも注目されています。 まずはWeb会議ツールでオンライン研修をスモールスタートさせ、オンライン研修を拡大させる場合には、Cloudツールの導入も視野に入れるとよいでしょう。 3-3. 事前テストを行う 研修当日にトラブルが発生して慌てないよう、事前の接続テストを行います。 少なくとも複数のデバイスで当日と同じ環境を用意し、接続テストを実施しましょう。事前にテストを行うことで、当日の運営をある程度スムーズにすることができます。 モニターやマイクに不具合はないか、画面がフリーズしないか、資料は見やすいか、画面の共有はスムーズにできるかなど、チェック項目を用意して確認するとよいでしょう。 3-4. 研修を実施する 研修当日は、開始時間になったらWebツールを使って研修を配信していきます。 オンライン研修では、モニターに講師の顔から肩までしか映らないため、ノンバーバルコミュニケーション(非言語のコミュニケーション)の取りにくさが課題となります。 講師は身振り手振りやうなずきを増やし、普段よりもリアクションを大きく取ることを意識しながら講義を行いましょう。 さらに研修内では、質疑応答の時間を設けることが、受講者の理解を深めるために効果的です。Webツールによっては、参加者をグループ分けする機能もあります。グループワークを行い、研修への参画意識を高める方法もあります。 当日の様子は録画しておき、後日受講者の復習や未参加者に共有することも可能です。 3-5. フォロー・振り返りを行う オンライン研修が終了したら、受講者のフォローや研修効果の振り返りを行ってください。 Webツールによっては、アンケート配信機能があるため、受講者の理解度や感想をヒアリングできます。 必要に応じて、受講者に追加の課題を依頼するなどして、研修で学んだ内容が定着できるようなフォローを実施しましょう。 オンライン研修のやり方(受講者側) オンライン研修を実施したことがない方は、受講者側の受講プロセスも一通り把握することが重要です。受講者の立場になって、主催のプロセスにぬけもれがないかを確認しましょう。 4-1.必要な環境を整える 受講者は、まずオンライン研修を受講するための機材やインターネット環境を準備しましょう。 研修はスマートフォンやタブレットでも受講可能な場合が多いですが、パソコンでの受講が一般的とされています。 また、グループワークを取り入れたり、受講者の顔を写した状態で講義を行ったりする研修もあるため、カメラが必要な場合もあります。パソコン内蔵のカメラで問題ありませんが、なければWebカメラを用意するようにしてください。 4-2.事前準備をする 主催者から講義内容のPDF資料が共有されたら、事前にプリントアウトしておくことをお勧めします。 パソコン上で確認することも可能ですが、同じ画面上に講師が共有する画面と資料が混在していると分かりにくくなります。印刷して手元に残しておくことで、メモも取りやすくなるでしょう。 当日までに資料を見て講義の予習と全体の流れを把握しておくことで、スムーズに講義を受けることが可能になります。 オンライン研修は自宅から受講することもありますが、服装が何でもいいわけではありません。 主催者からスーツや私服など、服装の指定がある場合はそれに従いましょう。指定がない場合は、清潔感のある服装を心がけてください。 4-3.研修を受講する 研修当日は主催者から指定されたURLをクリックし、受講を開始します。 オンライン研修では主催者によって、開始5分前までにWeb会議システムへ入室してほしいと指示される場合もあります。パソコンの起動やWi-Fi接続、マイクの確認などの事前準備の時間も考慮し、余裕を持ってスケジュールを組みましょう。 グループワーク中や質疑応答などを除き、受講者はオンライン研修中にマイクをミュートにすることが基本です。また、自分のカメラがONになっている場合は講師から見られることを考え、節度のある態度を心がけましょう。 たとえ自宅から参加する場合でもリラックスしすぎず、会場で受講する場合と同じようにマナーを守ることが社会人のルールです。 4-4.復習・不明点を確認する オンライン研修を実施後は、なるべく速やかに復習を行い、理解度を確認するようにしてください。 研修で使用した資料を見直し、不明点があれば講師や主催者に追加で質問するといよいでしょう。また研修後アンケートを依頼された場合は、率直に自分の意見を主催者側にフィードバックしてください。 オンライン研修を成功させるポイント 最後に、オンラインの効果を高めるための成功ポイントをお伝えします。 5-1.マニュアルや資料を整備しておく 受講者の中には、ITに苦手意識がある方や、ツールを使うのに不慣れな方も一定数います。 当日になって「Webツールやソフトウェアの使い方が分からなくて、オンライン研修に参加できない」といったトラブルが起こるのを避けるため、受講者が事前準備できるようなマニュアルを整備しておきましょう。 事前課題がある場合も、忘れずに受講者に依頼や共有するようにしてください。 5-2.受講ルールを決めておく リアルタイムでオンライン研修を行う場合は、「原則、顔出しする」に代表される受講ルールを、あらかじめ設けておきましょう。 「自宅を映したくない」という理由から、顔出しに抵抗感を示す受講者も一定数いる可能性があります。その場合は、背景に表示できる画像を選べる「バーチャル背景機能」の利用を案内することで、フォローが可能です。 顔出しには、受講者同士のコミュニケーションを円滑にしたり、講師が受講者の反応を見ながら内容をアレンジできたりなど、一定の意味があります。 一方的に「顔出ししなければならない」とルールを押し付けるのではなく、顔出しする意味や意義を伝えると、受講者は納得して気持ち良くオンライン研修に参加できるでしょう。 5-3.比較的短時間で行う オンライン研修はオフライン研修よりも集中力が持続しにくく、疲労も蓄積しやすいとの声もあります。 そのため、研修時間はできるだけ60分以内に抑えましょう。 仮に長時間のオンライン研修を実施する場合は、10分以上の休憩を挟むといいでしょう。 休憩の際は、「できるだけパソコンの前から離れ、手足を伸ばすようにする」と、疲れないような工夫を受講者に呼びかけることも大切です。 まとめ オンライン研修は、多様な働き方に対応できる、今の時代にフィットしやすい教育手法といえます。 ただし、オンライン研修ならではの事前準備や工夫ポイントがあるため、初めて実施する場合は段取りをしっかり確認することが必要です。 今後もオンライン研修の潮流は続くことが予想されるため、興味がある場合は小さな勉強会からトライアルをしてみてはいかがでしょうか。   ユーザ登録数無制限!コストをなるべく抑えて幅広い教育としてeラーニングを活用したいならCloud Campusがおすすめです。 220社160万人が使う低コストLMS 内製型eラーニングシステム Cloud Campus eラーニングとは?概要からメリットやトレンドまで徹底解説 eラーニング導入で失敗しないための3つのポイントを解説 効果の高いeラーニング教材の作り方と3つのポイント【企業事例付き】  

まずはお試しください!