2024.03.12
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MBO(目標管理制度)は、社員自らが目標を設定し、達成をめざして業務を進めていくマネジメント手法のことです。
上司からの命令ではなく、本人の問題意識や成長課題に基づいて目標設定する点が特長で、多くの企業で導入が進んでいます。ただし、MBOの本来のメリットを享受するためには、運用やマネジメント側の関与の仕方で気を付ける点もあります。
今回は日本企業に浸透するMBOについて、メリットや注意点、効果的な運用ステップを解説します。
今後MBOの導入を検討している方も、現在のMBOの運用を見直したいとお考えの方も、参考にしていただければ幸いです。
MBO(目標管理制度)とは?
目標管理制度とは、四半期や半年という一定期間で達成すべき目標を決め、期間終了時に目標の達成度合をチェックするマネジメント手法です。
英語の「Management by Objectives and Self Control」の頭文字をとって、「MBO」と略されています。
MBOは、もともと経営学者として有名なP.F.ドラッカーが、『現代の経営』のなかで紹介した概念です。
「Management by Objectives and Self Control」の言葉で示されているように、「目標と自己統制によるマネジメント」がMBOの特長といえます。
つまりMBOは、社員自らが目標設定するため、会社や上司の指示とは異なるボトムアップ方式の目標なのです。自身の目標を達成すると、組織の目標達成にも寄与するため、モチベーションを高く保ちながら業務に取り組めるメリットがあります。
現代ではMBOの考え方は、アメリカはもとより、日本および世界各国の企業に浸透しています。またMBOだけでなく、ほかのマネジメント手法と組み合わせるケースも見受けられます。
MBOとOKRとの違い
MBOは、しばしばOKRと比較されます。
OKRとは、インテル社のアンディ・グローブが1970年代に構築した、MBOの一手法です。
MBOは社員の自主性や業績を可視化することで、個々の社員の人事評価に活用できます。
OKRは企業やチームの目標を個々人に連動させることで、組織目標への目線をそろえる目的があります。
一般的に、社員の自主性を重視し、人事評価にも活用するのであればMBOがお勧めです。
一方のOKRは、個人の目標を企業やチームの目標に連動しやすいことから、階層的な管理体制になっている企業に適しています。
ただし、本来のインテルの思想としては、MBOとOKRは別の目的ではありませんでした。MBOで得られる効果をより高くするために開発したのが「OKRメソッド」なのです。
OKRの最大の特長は目標(Objectives)に必ず主要な結果(Key Results)をセットする点です。
これらは、KPI(Key Performance Indicator)やKFS(Key Factor for Success)という指標で略されているケースもあります。
市場に急速な変化が起こった場合、MBOの目標そのものを変更しようとすると、パワーがかかりスピードも遅れる懸念があります。
そのためMBOを取り入れつつも、MBOの機動力をより上げるために「OKRメソッド」を併用するという企業も一定数存在します。
日本で目標管理制度が広がった背景
近年は、日本企業でのMBOの導入率が高くなっています。
労務行政研究所が行った「人事労務諸制度の実施状況調査」によると、日本では78.4%の企業で目標管理制度を導入しています。
実に8割近くの企業で導入が進むMBOですが、もう少し詳しく、目標管理制度が普及した時代的な背景を探っていきましょう。
MBOが日本で注目されたのは、1990年代です。
バブル経済崩壊後、業績の立て直しを迫られた日本企業は、経営や人事制度の大規模な見直しに着手しました。
その際に参考にしたのが、急成長していた米シリコンバレーのIT企業です。
イノベーションの文化や意思決定のスピード等、学ぶべき点が多々あるなか、注目されたのは「成果主義」の人事制度でした。
当時、その成果主義とともに注目されたのが「MBO」です。
成果主義を掲げるなかで、従来型の能力やプロセス重視の評価制度ではなく、結果重視のMBOは相性がよかったのです。
ただし、成果主義の潮流で導入が進んだことで、一部の企業では「MBO=ノルマ管理」のような間違った認識も広まってしまいました。
会社からの一方的な目標を強要したり、結果至上主義のようなドライ過ぎる運用が横行したりした事実もあります。
MBOを導入する際は、ドラッカーが提唱した「and Self Control」を尊重すべきことは、時代背景からも学ぶことができるでしょう。
MBOを導入するメリット
これまでMBOの概要や導入が進んだ背景を紹介してきましたが、ここからはより現場で実感しやすい具体的なMBO導入のメリットについて確認していきます。
1. 社員が成長しやすい
MBOでは社員自身で目標を設定し、達成までのプロセスを含めて管理します。そのため、自己管理能力が向上する等、MBOを通じて社員が成長しやすい点がメリットです。
上層部から与えられた目標の場合と比べても、自主的に目標達成できるための工夫や努力を行うため、その過程で業務効率化や、より高いスキルの習得が期待できます。
さらにメンバーの目標達成をマネジメント側がフォローすることで、マネジメント側も一体となって社員の成長を後押しできるでしょう。
2. 社員の主体性や自律性が高まる
MBOの主役は社員一人ひとりであるため、社員の主体性や自律性が高まりやすい点もメリットです。
目標設定そのものも社員自ら決めますが、そこへの到達プロセスも社員自身でセルフコントロールする必要があります。
仮に目標の進捗が予定通りにいかない場合でも、上層部からの指揮命令を待つのではなく、社員個人がまずは解決策を考案しなければなりません。
もちろん必要に応じて上司の力を借りることもありますが、「自ら考える必要がある」という意識が芽生えることは、仕事に主体的に向かうスタンスが鍛えられるでしょう。
3. 人事評価の透明性・納得感が高まる
MBOは情意評価やプロセス評価と比較すると、評価者の主観が入りにくいため、人事評価の透明性や納得感を高めやすいメリットがあります。
達成すべき指標や達成と見なされる状態、達成期限があらかじめ定められていることで、目標の進捗や達成・未達成が可視化されているのがMBOの特長です。
また、評価に納得がいかないときであっても、「何を根拠にこの評価結果になったか」について確認できるため、健全な議論が進めやすい利点もあります。
もちろん、社員自らが設定している指標であるため、どのような結果であっても社員の納得感も得られやすくなるでしょう。
MBOを導入する際の注意点
1990年代に「ノルマ管理」のような誤認含みでMBOが浸透してしまったように、現代でもMBO導入には配慮すべき点があります。
本章では、MBO導入企業で陥りやすい注意点を紹介していきます。
低い難易度の目標を設定してしまう
MBOの目標は社員が率先して設定するため、なかには低い難易度の目標を申請する社員もいます。
このように社員の自己申請だけに任せていては、目標レベルに差が生じがちなのがMBOの注意点です。一段高いレベルの目標を掲げる人もいれば、これまで通りの業務の進め方で達成できる内容を選ぶ人もいるでしょう。
MBOは目標の達成度で評価するため、低い目標を設定した方が評価は有利に働くことになります。
挑戦的な目標を掲げた人が低評価で、低い目標を掲げて努力しなかった人が高評価といった不公平な事態になりかねません。
このような事態を防ぐためには、マネジメント側がメンバー間の目標難易度を調整しながら、目標設定をサポートする必要があります。
さらに部署間の難易度を是正するために、人事部門の介入や部門横断での目標確認ミーティング等も有効でしょう。
目標項目以外の業務が疎かになる
設定した目標達成にとらわれすぎて、目標とは関係がない業務を軽視しがちになるのもMBOの注意点です。
MBOのメリットは目標が可視化されることですが、目標には入れていないものの、やるべき業務が組織には数多くあります。
また期中には環境変化も予想されるため、誰の目標にも含まれていない業務が発生することもあるでしょう。
このため、MBOの運用では、期中に他メンバーや組織目標の共有をこまめに行い、メンバーが自分の目標ばかりに集中しないような工夫も必要となります。
期中には面談を行い、目標に含まれる内容や達成基準をチューニングすることで、結果評価の納得感を上げる工夫も効果的です。
社員のモチベーションの低下を招くことがある
MBOは結果評価なので、メンバーによっては期中を通じたモチベーション維持が難しくなる点には注意が必要です。
特に営業部門等、数値目標が明確な職種では、マネジメント側が数値の達成状態しかチェックしていないと、メンバーのよい動きが拾えなくなってしまいます。
例えば顧客都合のような不可避な理由で目標達成ができなくても、顧客によい資料を作った・アプローチを工夫した等、評価できるプロセスはあるでしょう。
マネジメント側としては、結果だけではなく「結果に影響を与えるプロセス」に着目し、必要に応じてメンバーを褒める等して、メンバーのモチベーション維持に注意を払う必要があります。
また、経験の浅い新入社員やMBOを導入して間もない企業では、メンバーが適切な目標を立てられないこともあります。マネジメント側から適切なサポートが受けられないと、モチベーションの低下につながるため注意が必要です。
効果的なMBOの運用ステップ
効果的にMBOを運用するために、押さえるべき運用ステップを紹介します。あくまで基本的な流れとなりますので、適宜自社の状況に応じてアレンジいただければ幸いです。
STEP1. 目標を設定する
人事評価にMBOを活用する場合は、期初にメンバーからの申請を基に目標を設定します。
この際、メンバーの目標申請と組織・上司からの期待をすり合わせすることが重要です。
メンバーの申請だけを鵜呑みにしてしまうと組織成果から外れる可能性があります。一方で組織側からの期待だけを押しつけてしまうと、MBOのメリットが享受できなくなるでしょう。
期初の目標設定面談では、メンバーからの申請を尊重しつつも、組織成果からの期待・メンバーへの成長期待・他メンバーとの目標バランス等、幅広い視点でメンバーと目標をすり合わせる必要があります。
健全に話し合いを進めながら、メンバー・マネジメント側の双方が「今期はこの目標でやっていこう」と合意形成できることを目標設定のゴールとしましょう。
STEP2. 目標のブレイクダウンをする
目標内容のすり合わせだけでなく、もう一段目標のブレイクダウンをすることも必要です。
例え目標そのものは合意ができていたとしても、達成への到達プロセスが曖昧では、目標が未達に終わってしまうリスクがあります。
そのため、できれば期初の早い段階で「どのように達成をめざすか」という達成プロセスのブレイクダウンもしておきましょう。
前述したOKRメソッドを使い、目標達成までの中間指標であるKPIの設定もお勧めです。
また個別メンバーとの合意だけでなく、他メンバーや他部署の目標をチェックしたうえで、必要に応じて目標の横並び調整をすることも忘れないでください。
STEP3. 目標を遂行する
MBOは目標設定と結果評価がクローズアップされがちですが、期中の目標遂行期間のフォローも必要です。
目標達成のためには、定期的な面談で進捗状況を確認し、状況に応じたマネジメント側のサポートが重要となります。
定期的に面談を行っていれば、進捗が頓挫したときや問題があったときに迅速に対応できます。問題が小さいうちに解決につなげられるため、目標の達成確率を上げることができるでしょう。
また、大きな環境変化のような予想外の事態が起きた際には、期中であっても目標修正をタイムリーに行うようにしてください。
STEP4. 結果を評価する
目標設定と同様に、結果評価の際にもメンバーからの自己申請を基に行います。
達成度の評価や根拠をメンバーが申請したうえで、マネジメント側が総合的に判断する流れがよいでしょう。
評価面談の際に自己評価とマネジメント側からのフィードバックを繰り返すことで、共通認識が深まることにもつながります。
また結果の評価という定量的な部分だけでなく、定性的なプロセスも評価することがお勧めです。目標達成の可否のみであれば、メンバーのモチベーション向上に貢献しにくくなります。
結果に関わらず、よかった動きや次にめざすべき成長課題を話し合う機会としましょう。
まとめ
MBOは人事評価で活用されることが多いですが、本来は社員の自主性を引き出すマネジメントの概念です。
昨今は「自律キャリア」や「ワーク・ライフ・バランス」等、社員を主体とする制度を検討する傾向にあるため、日本企業ではMBOが馴染みやすくなりつつあるといえます。
ただし本来のMBOの目的を享受するためには、現場マネジメントや人事部門に工夫が求められるのも事実です。
一般的な概念だけではなく、自社に即した実運用を見越しながら、MBOを導入するようにしましょう。
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