2023.05.25
人材教育
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現代でも愛読される『孫子の兵法』の魅力とは?
『孫子の兵法』が著されたのは、今からおよそ2500年前の中国です。当時の中国は春秋戦国時代の末期にあたり国家間の戦争が絶えなかったそうです。その中の一つ『呉』という国にいた『孫武』という一人の将軍が著した兵法書が、現代で『孫子の兵法』と呼ばれているものです。『孫子の兵法』は全十三篇から成り立ち、1『始計篇』、2『作戦篇』、3『謀攻篇』、4『形篇』、5『勢篇』、6『虚実篇』、7『軍争篇』、8『九変篇』、9『行軍篇』、10『地形篇』、11『九地篇』、12『火攻篇』、13『用間篇』に分けられていますが、文字数は6000字前後で、400字詰めの原稿用紙15枚程度という驚きの少なさ。
この作品は、ただ単に戦争の戦略メカニズムを説いた指南書ではなく、現代のビジネスの勝ち方にも通じる最高の指南書とも呼ばれているそうです。それを証明するように、一流の経営者に幅広く愛読されており、松下幸之助さんやビル・ゲイツさんも座右の書としています。きっと、この短い文字数の中に、勝利を得るためのエッセンスが凝縮されているからなのでしょう。
とにかく、オーラ出まくりの『孫子の兵法』。これを学ぶことで、現代の企業や仕事の現場でも大いに役立てることができそうです。
企業の人材育成担当者や管理職の心にしみる孫子の言葉
以下には、とりわけ企業の人材育成担当者や管理職にとって、社員や部下のモチベーションアップにも活かせる部分にフォーカスして記載しています。知っておいて損がない『孫子の兵法』の一説を、現代の仕事や業務に沿うよう意訳もしているので、併せてご覧ください。
上司が部下を思いやることで、部下の士気は向上する
『地形篇』
卒を視るに嬰児(えいじ)の如し、故に之と深谿(しんけい)に赴く可し、卒を視るに愛子あいしの如し、故に之と倶ともに死す可し。 愛して令する能はず、厚くして使ふ能はず、乱して治むる能はざれば、譬(たと)へば驕子(きょうし)の如し、用ふ可からざるなり。
-意訳-
上司が部下を統率する時、わが子のように愛してやれば、部下はどんな困難な状況であろうと、着いてきてくれるものだ。しかし、部下を厚遇するだけで、命令できずに規律を乱すようであっては意味がない。厳しい中に思いやりを持って接することが重要だ。
行き過ぎた咎めに利益はない
『軍争篇』
帰師(きし)には遏むる(とどむる)こと勿れ、囲師(いし)には必ず闕き(かき)、窮寇(きゅうこう)には迫ること勿れ。此れ用兵の法なり。
-意訳-
撤退した敵の進路を遮ると「窮鼠、猫を噛む」という言葉のとおり敵は死にもの狂いで向かってくるように、失敗した部下を叱るときに追いつめると、反発したり、ふてくされたりして指導の効果が薄れてしまう。部下をしかるときの行き過ぎた咎めは、自社の利益にならない。
社員の結束力が大事
『形篇』
善く兵を用うる者は、道を修めて法を保つ。故に能く勝敗の政を為す。
-意訳-
戦争の上手な者は人心を一つにまとめて規律ある軍隊を作り上げるように、企業においても、日頃からリーダーが、社員の共感するビジョンや夢を説いて、士気を高めることが重要である。
上司は部下に仕事を任せたら、無闇に口出ししてはならない
『謀攻篇』
夫れ将なる者は、国の輔(たす)けなり、輔、周あまねければ則ち国必ず強し、輔、隙すきあらば則ち国必ず弱し。 故に君の軍に患(わずら)ふる所以の者に三あり。軍の以て進む可からざるを知らずして、之に進めと謂ひ、軍の以て退く可からざるを知らずして、之に退けと謂ふ、是を「軍をつなぐ」と謂ふ。 三軍の事を知らずして、三軍の政を同じうすれば、則ち軍士惑ふ。 三軍の権を知らずして、三軍の任を同じうすれば、則ち軍士疑ふ。 三軍既に惑ひ且つ疑うときは、則ち諸侯の難至る、是を軍を乱して引いて勝たしむと謂ふ。
-意訳-
現場リーダーは現場を仕切る役目である。現場リーダーが上司と親しいならチームは必ず強くなり、現場リーダーと上司の間に溝があるならチームは必ず弱くなる。上司が現場についてやってはいけない点は三つある。第一に、現場を知らない上司が「あーしろ、こーしろ」と命令したり、やるべきことを「やらなくいい」と命令したりすること。これは、現場リーダーの足を引っ張っているようなものだ。第二に、上司が現場を理解しないまま末端スタッフに直接命令してしまうと、現場リーダーのメンツを潰すことになり、士気に影響してしまう。第三に、現場リーダーの頭を飛び越え、末端スタッフに口出しすることは、末端スタッフたちは誰の指示に従えばいいのか混乱してしまう。
このように、チームが混乱してしまうと、チームが目指すべき目標達成がさらに遠のいてしまうのだ。
最後に
上述した孫子の言葉は、現代のビジネスシーンにおいて社員や部下のモチベーションアップさせる術として参考になるのではないでしょうか。
今回は少ししか触れていませんが、『孫子の兵法』が何千年の時を超えて今もなお、読まれ続けている理由がわかった気がします。戦争のみならず、ビジネスやスポーツなど、競争や人間関係には普遍的な原理原則があって、『孫子の兵法』はそこに焦点を絞ることで、あらゆる時代の人へ指針を与えてくれているのですね。これを機に『孫子の兵法』を探求して、自分の仕事に役立てみるのはいかがでしょうか?
<参考書籍>
現代ビジネス兵法研究会、紀ノ右京『なるほど!「孫子の兵法」がイチからわかる本』株式会社すばる舎、2008年12月1日